家畜人工授精師講習会 その2

というわけで続きです。


昨年の実習では人工授精(牛の膣内に精液を人工的に注入して妊娠させる)を学びました。

年明け早々に行われたのは、受精卵移植の実習です。
こちらは、牛に人工授精をして牛の体内で受精させた受精卵を採取し凍結した体内受精卵や牛から卵子を採取してシャーレの中で人工的に授精させた受精卵を凍結した体外受精卵を別の牛の子宮に移植する技術のことです。

つまり、代理母ですね。
人工授精と違うところは、別な牛のこどもを産めるということです。
ホルスタインに黒毛和種の受精卵を移植して、母牛はそのまま搾乳、子牛は肥育して高く売るということが出来ます。
また、十和田農場のように極小農場で多くの品種を置いているところでは(そんなところはほとんどないと思いますが)、今いる品種から受精卵を作っておいて、妊娠させられない実習期間を避けて、健康な牛に移植・分娩させて多くの品種の維持を行うことなどが出来ます。
今いない品種でも、生体を導入せずとも受精卵を移植して子供を産ませることにより導入することもできます。
人工授精より受精率は下がりますが、とても応用力の高い技術です。


今回の実習では、牛の卵巣から卵子を採取するという実習を行いました。
つまり、体外受精の一番初めの工程です。


この古そうな装置で行います。(実際とっても古い)
これはもともとは人間用の機械なんだそうです。


牛の膣内から卵巣にエコーをかけて卵胞を映し、その映像を見ながら卵胞に針を刺して卵子を吸い上げていきます。


熟練の技術が必要なので、獣医学部でもできる人が限られています。
学生さんたちには、一連の流れを見学してもらいました。


この技術は人間でも同じように採用されています。
所謂不妊治療のひとつです。
同じように、女性の卵巣から卵子を機械で吸い上げて採取し、シャーレの上で精子を振りかけて授精させ、様々な処理を行って凍結保存します。

この後、学生さんたちは教室に持ち帰られた卵子を検査し、良質なものから受精卵を作ります。
移植技術は人工授精の手順とほぼ同じですが、より衛生的に処理しなければなりません。
また、移植する時期が人工授精とは異なります。
今回の実習ではこうした知識や技術を学ぶことが出来ます。

目的は違えど、牛での技術が人間にも応用されているというのはすごいことですよね。


この技術は勿論経験が必要で、資格を取ったからといってすぐできることではありませんが、この資格がなければ牛に人工授精や受精卵移植をすることはできません。

日本の牛は全頭に番号(個体識別番号)が割り振られており、親や生まれたところ、育った場所などが全て追跡できるようになっています。
個体識別番号がない牛は、牛として認められず、屠畜してお肉として売ることが出来ないようになっています。
個体識別番号を申請するときには、どの牛にどの精液をだれが人工授精したという証明書を添付しなければならず、この『だれが』の部分には必ず人工授精師の名前が書かれていなければならないのです。

と、ちょっと専門的な話題なりましたが、こうしたことを習得して今月7日、北里大学の学生さんたちは卒業していきました。
みなさん、卒業おめでとうございます。
卒業後も研究室の羊を世話しに来る姿が見られましたが…(笑)
大学生活4年間、そのうち十和田での3年間、本当にお疲れ様でした。

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